シリエトク日記15 知床ニテ北方領土問題ヲ考ヘシ語十五
8月4日(水)
知床プリンス・ホテル連泊最終夜――
知床に着いてから日々カニ攻めで、「カニだけはやめて下さい」と部屋係に頼んだら、「ご所望は?」と訊かれ、若芽を食害して害獣化している「エゾシカの肉が食べたい」と言ったら、しっかり分厚いエゾシカの赤味に霜降りの知床牛の陶板焼きが出て嬉しくなった。
TV――何というアップ・トゥ・デイト! NHKの「クローズアップ現代」は北方領土特集!
国後を見て、これぞ日本領土! と息巻いて、手元には羅臼の宿でゲットした外務省発行の分厚いパンフもあった。ところが――
ソヴィエト時代からロシア連邦共和国初期にかけては経済不況のために、北方4島は過酷な状況が強いられていた。そのため、歯舞・積丹の分割返還が提示されたのであった。しかし日本側は全島返還に拘り、この話はぽしゃった。ところが――
今、ロシアは景気が上向いてきている。今回、ロシア政府は北方4島に日本円にして54億円という強力な経済援助を行い、かつて日本であった頃の中心地でもあった積丹は同じような活況を呈しており、映像の中には若者や子供の姿も多く見られ、最新の医療設備や機関が稼動していた。
「……これじゃ、当分、絶対ロシアは返さねえな……」
と思いながら、僕は一昨日の羅臼でのお婆さんたちの会話を思い出していた――
島を隔てた日本本土では――羅臼にはロクな医療設備も医者もいない――透析にはホントに一日仕事で釧路まで行かねばならぬ――
万一、北方4島が返還されたとして――老人に病院を出て勝手に生きろという無慈悲な医療行政を行っている、この日本が――羅臼の透析患者には一日仕事で釧路に通うか、それが嫌なら釧路に引っ越せという行政を行っている自治体が――どれだけそれらの島に梃入れしてくれるんだろう――菅総理に訊いて見ようではないか!
……「仮に北方4島が返還されたら、ロシアの54億円ぐらいは投入してもらえますかねえ?」……「そんな金ありませんよねえ?……でも、それでも『します』とおっしゃるんだったら、羅臼でも透析が出来るように、こっちの方も……手厚くやってもらえますよねえ?」……
旧4島の住民が切に返還を望むのは心情的に分かる。つい昨日まで、僕もそういう思いに傾いていた――が――この現実を見聞きしてみて、僕は簡単にそう主張出来ない自分に出会った。
今、これこそが僕がシリエトクで得た最大の知的衝撃であったような気がしている。
みなさんもシリエトクへ!
そしてそれぞれの思いを抱かれんことを!
僕は知床も与那国も好きだ!
辺境には日本の原風景と真の『日本人の血』が『在る』――
そして真の「人」としての思いが、沸き起こって来るところでもあるのだ――

