診断夢 又は 母の退院の夢
母の病院である。
[やぶちゃん注:今回、母が入院しているのは例の僕にとっていわくつきの病院――マラリアの友人が死に、僕の右腕の手術を失敗し二度やったあの病院だ。]
僕は体中に包帯を巻いている。所々に血が滲んでいる。その怪我の理由は分からない。
[やぶちゃん注:これは恐らく幼少期、結核性カリエスでコルセットを作る時の記憶のフラッシュバックである。実際、体中に包帯を巻き、首筋のところから熱い石膏を流し込まれた。以前にブログで書いた。]
窓際に若い精神科の女医がいて、僕は彼女から渡された英文の診断シートをチェックしている。
――すると――
今の左の耳鳴りや眩暈、総ての症状項目が合致する病気が、そこで判明する――
その書かれた病名は
――Internet hypnosis――
であった。眼から鱗だった。そうだと思っていた。覚悟していた。
[やぶちゃん注:“Internet hypnosis”――インターネット・ヒプノーシス――訳すなら「インターネット睡眠現象」である。よく知られたハイウェイ・ヒプノーシスから夢の中の僕が造語したらしい(リンク先はウィキの「高速道路催眠現象」)。文字が、それも英文が判然と夢に現れたのは僕の経験の中では極めて珍しい現象である。]
その時、地面が鳴動した。
女医の向うに禿山の成層火山があった(病院はこちら側の台形に成形したやはり裸の台地の上に建っている)が、その頂上付近が崩れ始めた。それは次第に巨大な岩雪崩となって、山麓に見える三軒の家屋を完全に破壊して飲み込んでしまった。僕と女医は成すすべもなく、それを見ていた。
[やぶちゃん注:夢の中の僕は、この成層火山を、漠然とであるが今夏行った知床の硫黄山である、と認識していたようである。しかし頂上は一つだったから、この硫黄山は遠い昔、知床で最高峰であった頃の、昔の硫黄山である。]
被災民でごった返す病院。――ふと見ると、病院の外壁の一部に罅が入っている。――僕は――『この病院もやっぱり危ない』――と思い、秘かに母を連れて病院を抜け出した。
[やぶちゃん注:『この病院もやっぱり危ない』――僕の中では説明不要。あの病院だからね。なお、母は来週退院する予定である。]
母と山を下る。
秋の気配。
母は元気に歩いている。
逆に僕はミイラのように包帯だらけで、ふらふらと歩いている。
途中で母が萩の花を摘んでいる……僕は黙って母を待っている……
(終劇)
[やぶちゃん注:母は恐らく歩いては退院出来ない。母は山野草が好きでよく摘んでは花瓶によく活けている。]