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« ゲシュタルト崩壊夢 | トップページ | 耳嚢 巻之三 鴻巣をおろし危く害に逢し事 »

2010/09/20

耳嚢 巻之三 雷公は馬に乘り給ふといふ咄の事 《ブログ先行公開》

昨日に引き続き、今日、訳注作業を完了した一篇、これもまた偶然(昨日の「孝童自然に禍を免れし事」の次の話で、雷繋がりの話柄である)、僕の大好きな話なのである(詳細語注は公開時と差別化するために省略する)。

何でか、好きなんだ、この話。

「卷之三」の未着手部分は25話を残すばかりとなった。

 雷公は馬に乘り給ふといふ咄の事

 巣鴨に大久保某といへる人有りしが、享保の頃、騎射の稽古より同門の許へ咄に立寄、暮前に暇を乞しが、未迎ひも揃はず、殊に雨も催しぬれば主人も留めけるが、雷氣もあれば母の嫌ひ、かれこれ早く歸りたしとて馬に打乘、騎射笠(きしやがさ)に合羽など着て歸りけるが、筋違(すじかひ)の邊よりは日もくれて、夕雨しきりに強く雷聲も移しければ、一さんに乘切て歸りけるに、駒込の邊町家も何れも戸を立居けるに、一聲嚴敷(きびしき)雷のしけるに乘馬驚きて、とある町家の戸を蹴破りて、床(ゆか)の上へ前足を上(あげ)て馬の立とゞまりけるにぞ、尚又引出して乘切り我家に歸りぬ。中間共は銘々つゞかず、夜更て歸りける由。然るに求たる事にはあらねど町家の戸を破り損ぜし事も氣の毒なれば、行て樣子見來(みきた)るべしと家來に示し遣しけるに、彼家來歸りて大に笑ひ申けるは、昨夜の雷駒込片町(かたまち)の邊へ落(おち)しといへる沙汰あり。則(すなはち)何軒目の何商賣せし者の方へ落し由申ける故、何時頃いか樣成事と尋ねけるに、五ツ時前にも有べし、則雷の落し處は戸も蹴破りてある也、世に雷は連鼓(れんこ)を負ひ鬼の姿と申習はし、繪にも書、木像にも刻(きざみ)ぬれど、大き成僞也、まのあたり昨夜の雷公を見しに、馬に乘りて陣笠やうの物を冠り給ふ也、落給ひて暫く過て馬を引返し、雲中に沓音(くつおと)せしが、上天に隨ひ段々遠く聞(きこえ)しと語りし由申ければ、さあらば雷の業(わざ)と思ふべき間、却て人していわんは無興(ぶきやう)なりとて濟しけると也。

□やぶちゃん注

○前項連関:バリバリバリバリ!!! ズゥゥゥゥン! ドォオォォン!!!――神鳴り直撃雷神来臨直連関! 映像的二連射、人々の生き生きとした表情、心根の暖かさが、伝わって来る。本作も私の頗る付きに好きな一篇である。しかし……前の「孝童自然に禍を免れし事」といい、この暖かい世間話といい――この、完膚なきまでに神経に落雷を受けてしまった今の世の人の心には、もう、なかなか生まれてこないような気もして、逆に淋しくなってくるのである。

■やぶちゃん現代語訳

 雷公は馬にお乗りになっておらるるという話の事

 享保の頃のこと、巣鴨に大久保某という御武家が御座った。

 武蔵野近郷での騎射稽古からの帰り、一緒に汗を流した同門の者の屋敷へ立ち寄って雑談致し、日暮れ前に暇(いとま)を乞うた。

 未だ迎えの者も揃うておらなんだ上に、生憎、雨も降り始めて御座ったれば、屋の主人も引き止めんとしたのじゃが、

「……雷気(らいき)も御座れば――我が母上、殊の外の雷嫌いにて。かかればこそ、早(はよ)う帰らねば――」

と馬にうち乗って、騎射笠に、今連れて御座る供に命じて出させた合羽などを着て、帰って御座った。

 筋違御門(すじかいごもん)の辺りまで辿り着いた頃には、とっぷり日も暮れてしまい――沛然たる夕立――夥しき雷鳴――なればこそ、一息の休む余裕もなく、一散に馬を奔らせる――

 駒込の辺りの町家――これ、いずれも硬く雨戸を立て御座った――

――と!――

――突如!

――バリバリバリバリ!!! ズゥゥゥゥン! ドォオォォン!!!――

――一際、凄まじい雷鳴が轟く!

――大久保の乗馬、それに驚き!

――バリバリ!!! ズドォン!!!――

と! 大久保を乗せたまま、とある町家の戸を蹴破り、家内へと闖入致いた。

 馬は――上がり框(かまち)から床(ゆか)の上へと――ばっか! ばっか!――と前足を乗せたところで――大久保、綱をぐいと締め、辛くも立ち止まる。――

 それから馬上、手綱にて導き、家内より馬を引き出だすと――そのまま、再び一散に己(おの)が屋敷へと立ち帰って御座った。――

 因みに、息咳切って従って御座った中間どもは、とっくの昔、筋違御門に大久保が至らぬ前に、伴走し切れずなって、夜も更けてから屋敷に帰ったとのことで御座った。

 ――――――

……さても翌日のこと、敢えてしたことにてもあらねど、町家の表戸を破り損じたことは、これ、当の主人にとって如何にも気の毒なことなれば、大久保、詫びと見舞を念頭に、

「……ともかくも、ちょっと行って様子を見て参るがよい。……」

と家来に申しつけ、駒込へと走らせた。

 ところが、この家来、屋敷に立ち帰って参るや否や、大笑い致しつつ、申し上げることに、

「……はっはっは! いやとよ! これは御無礼を……されど、これを笑わずには……主様とても……おられぬと存ずる……

――『昨夜の雷(かみなり)駒込片町の辺りへ落ちた』――

と専らの評判にて、即ち、

――『駒込片町○件目○○商い致しおる者の家へ落ちた』――

というので御座る。

 そこで、その家を訪ねてみました。

 そうして、その屋の主人に――それは何時頃のことで、落雷の様子は如何なるものであったか――と訊ねてみましたところが、

『……昨夜は五つ時前のことで御座ったろう――即ち!――雷の落ちた所は戸が木っ端微塵に蹴り破られて御座っての!……』

『……さてもさても!……世に「雷神は連鼓(れんつづみ)を背負い鬼の姿を致いておる」なんどと申し習わし、絵にも描き、木像にも刻まれて御座ろうが?――なんのなんの!――これ! 大いなる偽りで御座るぞ!……』

『……我らこと! 目の当たりに! 昨夜来臨なされた雷公さま、これ! 拝見致いたじゃ!……』

『……それはの!――馬にお乗りになられの!――陣笠の如き冠(かんむ)りをお被りになられて御座ったじゃ!……』

『……お落ちになられてから――まあ! ほんのちょっとのうちに!――かの雷馬を美事!乗りこなし――引き返しなさったんじゃ!……』

『……雲中貴き御蹄(ひずめ)の音をお響かせになられたかと思うと……昇天なさるるに従ごうて……その音(ね)も……段々と……虚空高(たこ)う遠くなって有難く……なって御座った…………』

という次第にて、御座いました。……」

 これを聴いた大久保も、破顔一笑、

「――ふむ! さあらば――畏れ多き雷神の業(わざ)と思うておるのであればこそ――却って人をして我らがこと告ぐるは――これ、興醒めというものじゃ、の!――」

と、そのままに済まして御座った、とのことで御座る。

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