ゲシュタルト崩壊夢
今朝の夢――
*
学校で2年5組に「源氏物語」を教えている。
[やぶちゃん注:今現在の事実である。明るいクラスである。]
不思議な教室で、扇のような階段状になった日本庭園を教室に仕立てたもので、大きな石が机や椅子代わりとなっており、底には大きな池がある。
[やぶちゃん注:池は現在の僕の職場の中庭の池である。そこを見下ろす丁度、中央3階に2年5組はある。]
黒板は何故か、階段の最上部に配されており、それはあの、宮沢賢治の「下ノ畑ニ居リマス」の小さな黒板なのである。
[やぶちゃん注:今さっき気がついて――吃驚した――明日は賢治の祥月命日である――。]
そこに僕は板書をしているのだが、「熾烈」という字を書こうとして、はたと指が止まってしまう。
――「熾烈」の「熾」の字の「日」の部分がどのような字であったかが分からなくなったのである――そうして――この「熾」という字が夢の中の僕の意識の中で急速に――各個パートが分解し始め――遂には何故この組み合わせが「熾」という字になるのか分からなくなってゆくのである――
[やぶちゃん注:これは所謂、心理学で言うところの“Gestaltzerfall”ゲシュタルト崩壊の典型例である(リンク先は御用達のウィキの記載)。漱石が全く同様に、漢字に対してしばしばこうした現象を感じることを弟子に告白していたという誰かの記載を以前に読んだことがある。]
僕は傍にいる生徒達に
「ここんところ、どんなだったっけ?」
と訊ねると、何人もが口々に説明してくれるのだが――それがまた聴いてもよく分からない説明なのである――それは実際に分かりにくい説明で(僕の頭がおかしくて認識できないのではなく)、あたかも彼らが「日」という字を知らず、書き方や図形のような迂遠な説明の仕方をするからであった――
そこで、
「悪いけど、紙に書いてくれる?」
と頼むと、やはり何人もの生徒がノートや教科書の余白に書いて見せてくれるのだが――ところが――「熾烈」の「熾」の字の――肝心の「日」の部分だけが――誰の字も乱暴な書き方か達筆な行書になっているために――読み取れないのだ――
そうこうするうちに終業の鐘が鳴ってしまった。
[やぶちゃん注:これは確かに現在の僕の職場であった。何故なら、僕の今の職場の鐘はオリジナルな特異な音楽であるから。正にそれであったから。]
男子生徒も女子生徒も――みんな――何だか寂しそうに――そうして彼らが悪いわけではないのに――申し訳なさそうな顔をして立ち竦んでいる――僕は殊更に明るい気持ちを奮い起こそうとしながら、
「じゃあね!」
と片手を挙げて――笑顔で――教室を去るのであった……
[やぶちゃん注:実は、この夢の前に――猟銃を持った不審者が侵入したという設定で防犯訓練が行われるのだが、それが生徒に知らされずに行われた抜き打ちのものであったがために、てんやわんやの大騒動が巻き起こる――慌て捲くる僕や、数十人で銀玉鉄砲を構える女生徒たちや、刺股を振り回す男子生徒たち――という抱腹絶倒の喜劇的大活劇があった(これを読んで呉れている君、君も出ていたよ)。馴染みの同僚たちもオールスター・キャストで登場する第一部が相当に長く存在するのである。それも記憶しているのだが……公務上知りえた秘密が含まれるため……涙を呑んで割愛する。――ただ言えることは、このゲシュタルト崩壊の夢も含めて――僕にとっては、ある判然とした理解可能な意味が隠されていることがよく分かるのである。――それについて、今は何も語らない。――しかし、またしても文字の夢であった。面白い。]
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