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2010/09/20

耳嚢 巻之三 海上にいくじといふものゝ事

 

「耳嚢 巻之三」に「海上にいくじといふものゝ事」を収載した。

 

 

 海上にいくじといふものゝ事

 

 西海南海にいくじとて時によりて船のへさき抔へかゝる事有由。色はうなぎやうのものにて長き事難計(はかりがたく)、船のへ先へかゝるに二日或は三日などかゝりてとこしなへに動きけるよし。然れば何十丈何百丈といふ限を知らずと也。いくじなきといへる俗諺(ぞくげん)は是より出し事ならん。或人の語りしは、豆州(づしう)八丈の海邊などには右いくじの小さきものならんといふあり、是は輪に成て鰻の樣成ものにて、眼口もなく動くもの也。然れば船のへ先へかゝる類(たぐひ)も、長く延び動くにてはなく、丸く廻るもの也といひし。何れ實なるや。勿論外の害をなすものにあらずとなり。

 

□やぶちゃん注

○前項連関: 特に連関を感じさせない。UMAシリーズの一(因みに、UMAは“Unidentified Mysterious Animal”「未確認の謎の生物」を意味する英語の頭文字であるが、これはUFOに引っ掛けた、和製略英語であって国際的には通用しない)。

 

・「いくじ」海の妖異生物で、後、「あやかし」などとも呼ばれて急速に明確に妖怪化している。「いくち」とも呼ぶ。以下、ウィキの「イクチ」から引用する(記号の一部を変更した)。津村淙庵の『「譚海」によれば常陸国(現・茨城県)の沖にいた怪魚とされ、船を見つけると接近し、船をまたいで通過してゆくが、体長が数キロメートルにも及ぶため、通過するのに12刻(3時間弱)もかかる。体表からは粘着質の油が染み出しており、船をまたぐ際にこの油を大量に船上にこぼして行くので、船乗りはこれを汲み取らないと船が沈没してしまうとある』(以下「耳嚢」の記載を載せるが省略する)。『鳥山石燕は「今昔百鬼拾遺」で「あやかし」の名で巨大な海蛇を描いているが、これはこのイクチをアヤカシ(海の怪異)として描いたものである』。『平成以降では、怪魚ではなく巨大なウミヘビとの解釈』(人文社編集部「日本の謎と不思議大全 東日本編」人文社〈ものしりミニシリーズ〉2006年)や、『海で溺死した人間たちが仲間を求める姿がイクチだとの説』(人文社編集部「諸国怪談奇談集成 江戸諸国百物語 東日本編」人文社〈ものしりシリーズ〉2005年)、『石燕による妖怪画が未確認生物(UMA)のシーサーペントと酷似していることから、イクチをシーサーペントと同一のものとする指摘もある』(山口敏太郎「本当にいる日本の現代妖怪図鑑」笠倉出版社2007年)と記す。但し、「あやかし」について附言すると、平秩東作(へづつ とうさく 享保111726)年~寛政元(1789)年)の「怪談老の杖」によれば、大唐が鼻での出来事として、舟人が遭遇した人間の女の姿をした女妖として描かれている。大唐が鼻は現在の千葉県長尾郡太東岬(たいとうみさき)である。

 

・「何十丈何百丈」1丈=3.03mであるから、「何」を3倍から9倍の幅で考えるならば、最低でも90m強、長大なものは凡そ2㎞700mという途方もない長さになる。いくらなんでも2㎞はあり得ない――しかし――それが――あるのである。

 

・「是は輪に成て鰻の樣成ものにて、眼口もなく動くもの也。然れば船のへ先へかゝる類(たぐひ)も、長く延び動くにてはなく、丸く廻るもの也といひし。何れ實なるや。勿論外の害をなすものにあらずとなり」岩波のカリフォルニア大学バークレー校版では「外」は「舟」とする。さてもこれは何だろう。鰻のようであるという部分からは所謂、鰻・鱧・海蛇などの長大個体を想定し得るが、ここまで長い誇張はしっくりこない。私は本文の後半、目も口もなく「動くもの」「長く延び動くにてはなく、丸く廻るもの也」という表現に着目する。この表現は、その個体の体軀が前半の記載と異なり、半透明であることを意味していないだろうか? 所謂、鰻や海蛇の類で、如何にぬるぬるしていても太くがっちりした円柱状であるソリッドな生体を「長く延び動くにてはなく、丸く廻るもの」とは言わないように思うのである。もしかすると「動く」「廻る」ように見えるのは、その内臓・体内が透けて見え、その中の鮮やかな臓器の一部が、動くから「廻る」のが分かるのではあるまいか? 蛇体形のものであれば、身体を伸縮する運動を必ずするから「延び動く」ように絶対見えるはずである。以上から私は、この「いくじ」を、全く独自に、ホヤの仲間である脊索動物門尾索動物亜門タリア綱 Thaliaceaのサルパ目(Salpida / Desmomyria)のサルパ類の、長大な連鎖群体に同定してみたい欲求に駆られるのである。サルパは体長2~5㎝程度の、筒状を成した寒天質の被嚢で覆われた透明な一見、クラゲに見える(が脊椎動物の直下に配される極めて高等な)海産生物である。体幹前端に入水孔、後端部若しくは後背面部に出水孔を持ち、7~20本の筋体が体壁を取り巻いている(これが腹側で切れているのが大きな特徴である)。ところがこのサルパは他個体と縦列や横列はたまた円環状(本文後半の記述に一致)で非常に長い連鎖群体を作って海面下を浮遊することで知られ、その長さは数10mから数100m(サルパであることの確認を取ったわけではないが、極めてその可能性が高いと私が判断しているネット上の国外の事例では約2㎞のものもあるようだ)にまで及ぶのである。以下に幾つかの属を示しておく。

 

サルパ科Salpidae

       サルパ属 Salpa

       ワサルパ属 Cyclosalpa

       ヒメサルパ属 Thalia

       オオサルパ属 Thetys

       モモイロサルパ属 Pegea

 

但し、サルパは海上表面に飛び出て、舳先に絡みつくようなことは勿論ないが、喫水線が低く舳先も低い和船にあってはピッチングの際に、この連鎖個体を舳先にぶら下げることもあろう(但し、ぶら下がって切れない程強靭であるかどうかは、残念ながら実際に試したことがないので分からぬ。寒天質では厳しいとは思う)――ただ、外洋でこの浮遊する連鎖個体を見たならば、吃驚りしないものは、恐らく皆無であろうという自信はある。私はかなり大真面目に「長大な」という「いくじ」の最大特徴を最もカバー出来る同定候補として、このサルパを、結構、自信を持って掲げるものである。ただ、最初は実は正真正銘のクラゲ、刺胞動物門ヒドロ虫綱クダクラゲ目嚢泳亜目ボウズニラ科ボウズニラRhizophysa eysenhardtii辺りをイメージした。以下、ウィキの「ボウズニラ」から引用しておく。ボウズニラは『群体性の浮遊性ヒドロ虫。カツオノエボシなどに代表される管クラゲ類の1種。暖海性で春に見られる』。『一般にはクラゲとされるがその体は複数のポリプから構成され、クラゲの傘にあたる位置の気泡体から幹群をもった細長い幹が出、触手、対になった栄養体とその間から生えた生殖体叢からなる』。『体色は淡紅。気胞体は高さ10-17㎜、幅5-9㎜、富む幹は3-mまで伸縮する』。『種名の「ボウズ」は坊主頭に似た気泡体に、「ニラ」は魚や植物の棘を意味する「イラ」の訛に由来する』。『近縁種にコボウズニラがあり、毒性はとても強く、漁師などが網を引き揚げるとき、本種などの被害を受けている』。しかし、その形態は「いくじ」やサルパほどにはシンプルとは言えないし、そもそもこれはその刺胞が強烈で漁師の立派な「害」になる(岩波版にこじつければ「舟」の害にはならないが)ので、最終的には除外した。

 

・「豆州」伊豆国。現在の静岡県の伊豆半島全域及び東京都の伊豆諸島に相当。

 

■やぶちゃん現代語訳

 

 海上に棲息する「いくじ」なる生物の事

 

 西や南の海にては、時によっては、「いくじ」という生き物が舟の舳先なんどに引っ掛かることがあるという。

 

 色は鰻のようであり、長さは計り知れぬ程、長大である。

 

 この「いくじ」、舟の舳先なんぞに引っ掛かろうものなら、二日でも三日でも引っ掛かったまんまで、これまた、いつまでも――ずるずるずるずるずるずるずるずる――と動いておる。

 

 何十丈、いやさ、何百丈あるのか見当もつかぬ程に――並外れて――長い――という。

 

 「いくじなし」という俗語は、この「いくじ」のように無用の終わり「なき」よな――ずるずるずるずるずるずるずるずる――いつまでも決心のつかない、気力も覚悟もつかない、という連鎖連想に由来する語なのであろう。

 

 ――また、ある人の「いくじ」談義では少し違う。

 

「……伊豆や八丈島の海辺などにては、このいくじの小物であろうと思われるものが棲息しておると言いまする。こちらは輪になった鰻のようなもので、目も口もなく、そのまんまに動く生き物で御座る。されば、かく「いくじ」が舟の舳先に掛かる、と言い伝えて御座るものも、実は海中より伸び上がって舳先にだらんとうち掛かっておる、というのではのうて、丸く輪になって廻る――則ち、舳先にその輪っかのような生き物がぶら下がっておる状態を言うておるので御座ろう。」

 

 ――さても、何れが真実(まこと)か。勿論、他にこれといって害をなすような生き物にてはない、ということで御座る。

 

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