耳嚢 巻之二 古へは武邊別段の事 《ブログ先行公開》
この話、すっごい好き! 面白くって、それでいて格好ええ~なあ! 映像で撮りたいなあ! 黒澤明なら、きっと「撮る!」って言ってくれると思う!
例によって本公開と差別化するために、注部分を割愛した。
――本話は「耳嚢」の「卷之三」の最後から二つ目の話。ということで、「耳嚢」の「卷之三」の全訳注をほぼ完了することが出来た。
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古へは武邊別段の事
水野左近將監(しやうげん)の家曾祖父とやらん、至て武邊の人なりしが、茶事(ちやじ)を好みけるを、同志の人打寄て水野をこまらせなんとて、茶に相招きいづれも先へ集りてけるが、左近將監跡より來りて、例の通帶刀をとりにじり上りより數寄屋(すきや)へ入りしに、先座(せんざ)の客はいづれも帶劍にて左近將監がやうを見居たりければ、左近將監懷中より種が嶋の小筒を出して、火繩に火を付て座の側に置ける由。昔はかゝる出會にて有りしと也。
■やぶちゃん現代語訳
古えの武辺これまた格段にぶっ飛んでいる事
水野左近将監(しょうげん)忠鼎(ただかね)殿の曾祖父の逸話であるらしい。
この御仁、至って武辺勇猛なるお方で御座ったが、同時にまた、茶事(ちゃじ)をもお好みになった風流人でも御座った由。
ある時、彼の朋輩らがうち集うて、
「一つ、水野を困らせてみようではないか。」
と相談一決、水野大監物殿を茶席に招いておいて、彼らは皆、わざと早々先に茶室に入って御座った。
そこへ大監物殿、後から――とはいうものの時刻通りに――ゆるりと現れ、茶事作法に従(したご)うて帯刀をば外し、にじり口より茶室へ入った。
……と……
先座せる一同は――これが皆、腰に刀剣二領挿しのまま、彼をじろりとねめつけて御座った……
……ところが……
大監物殿は――これがまた、表情一つ変えることものう、徐ろに――懐から種子島の短筒を引き出だいて――「フッ!」――とやおら火繩に火を付け――己が着座致いたその傍らに、トン!――と置いた……
……昔は、如何なる折りにも、かかる心構えをなして御座った、という何やらんうきうきしてくる話では御座ろう?
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