「海の幸」 蒲原有明
「海 の 幸」
青 木 繁 畫
ただ見る靑(あを)とはた金(きん)の深き調和(てうわ)――
きほへる力(ちから)はここに潮(うしほ)と湧き、
不壞(ふゑ)なるものの跫音(あのと)は天(あめ)に傳へ、
互(かたみ)に調(しら)べあやなし、響き交(かは)す。
海部(うみべ)の裔(すゑ)よ、汝等(いましら)、頸(うなじ)直(す)ぐに、
勝鬨(かちどき)高くも空(そら)にうちあげつつ、
胸肉(むなじし)張れる姿の忌々(ゆゆ)しきかな、
「自然(しぜん)」の鞴(たたら)に吹ける褐(くり)の素膚(すはだ)、
瑠璃(るり)なす鱗(いろこ)の宮を嚴(いづ)に飾り、
大綿津見(おほわたつみ)や今なほ領(しろ)しぬらむ。
いかしき幸(さち)の獲物(えもの)に心足(こころた)らふ
汝等(いましら)見れば、げにもぞ神の族(うから)、
浪うつ荒磯(ありそ)の濱を生(いき)に溢(あふ)れ、
手に手に精(くは)し銛(もり)取り、い行き進む。
(「春鳥集」より)