エルモライ最期の日記
今日、儂はミクーシ國のミンノー・コルフオーズで、遂に、農園でも牧場でも、誰より一番の農園主になつたぢやて。――
――なつたが、何處の農園もとんと人氣がねえ。烏麥が蔓延り、作物も家畜も居らん。不潔な蠅が、淀んだ水桶と古びた糞に群がつてわんわんと唸り立ててゐる。――
――しかし、儂は此處を去らぬぞえ。――
――何故かつて? ツルゲエネフの御主人樣の御歸りを待たねばのう。――
――それによ、お前さん、分かつてないのう、人にとつて幸せな世界ちうはの、社會主義たら言ふ怪し氣なものでも、資本主義たら言ふえげつないものでものうて、中國のどえりやあ哲人さんが申された、あの小國寡民とか何とか言ふもんなんぢや、なかろうか、の……
……これが、ミクーシの農園の管理人で御座つたエルモライの――最期の言葉ぢや……
さようなら、皆の衆……さうして、皆の衆……心からありがたう――
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