T君 ありがとう
芸大に受験を望むT君と小論文シュミレーションに半日一緒に付き合う。
東大寺金剛力士二像(阿吽形)の造形的特性を比較検討して論述し(阿形が運慶、吽形が快慶とされる。但し、明白な工房製作による寄木造である。それは勿論、問題に示されていない)、更に俊乗上人坐像(伝康慶〈運慶の父〉又は運慶作とされる法然の弟子重源の写実的木像)及び八幡神坐像(快慶真作)の作者を、その作風から類推して、両金剛力士像と同一の作者のものと結んで論述せよという超難問だ。
そうして更には、「アポロンとダフネ」(恋したアポロンから逃れるダフネが木化する過程をスカルプティング・イン・タイムした絵画作品と彫刻作品(ベルニーニ)を比較して、そのベルニーニの彫刻作品の持っている造形的特性を述べよという問題だ。
実に4時間以上、二人で職員室で議論した。こんなに楽しい一時は――僕はこの職場に来て、6年間の中で、殆んどなかったと告白する――いや、2年前に某国立大学のマルチ・メディアへの進学を望んだデユシャンの指導をした女生徒(美事後期試験で合格した)と、その彼氏で東大に一発現役合格した少年への、何と一対一(彼には実に芥川龍之介の「骨董羹」の現代語訳で協力を東大受験直前に(!)協力してもらったのであった!)の講義だけが――それに十全に匹敵するものであったと言える。
『狂師』冥利――この言葉ももうそこでは死語になってしまったな――狂師冥利は、ここに美事に尽きた――――「私はこの時始めて、云ひやうのない疲勞と倦怠とを、さうして又不可解な、下等な、退屈な」この数週間の「人生を僅に忘れる事が出來たのである。」(芥川龍之介「蜜柑」)――本当にありがとう! T君!
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