その恋を 村上昭夫
その恋を捨てるのか
その三百年を捨てるのか
待つことのできる恋ならば
めのうのように結ばれるだろうに
その恋を語れるのか
その三千年を語れるのか
遠い恋について考える時
共に考え続けられるのか
考え続けられる恋ならば
海溝のように深まるだろうに
その三万年を
その三億年を越える月日を
語り続けられるのか
考え続けられるのか
*
ソロモンとシバのたった一度の恋は龍之介と廣子の邂逅から遡ること、実に三千年前のことだった――そうして三億年前――ソロモンとシバと後になる龍之介と廣子は――確かにゴキブリの祖先として地中深くの岩盤の間で互いの体を寄せ合い、暖めあっていた――そんな重なり合った化石を僕は確かに見たような気がする――村上昭夫よ、君の最後の畳みかけた疑問文は――少なくともこの二人には――「語り続けられる」のであり「考え続けられる」のであったと僕は信ずる――では、君は? そして、僕は?――それはきっとちっぽけな貴方や下劣な僕の問題では『ない』のかも知れないとは思わないか?――恋は一人では出来ぬことは自明であると知っていながら近代人の僕らは、必ず確信犯のように『恋』を単独者として語ってはいなかったか?――「語り続けられる」「考え続けられる」恋をするための、確かな相対する恋人の存在なくしては――それはそもそも命題として成立しないのである――でも――大丈夫さ――村上君、僕は確かに――君に確かに恋しているから……

