毛蟲 北原白秋
毛蟲、毛蟲、靑い毛蟲、
そなたは何處(どこ)へ匍うてゆく、
夏の日くれの磨硝子(すりがらす)
薄く曇れる冷たさに
幽(かすか)に、幽に、その腹部(はら)の透いて傳はる美しさ。
外(そと)の光のさみしいか、
内の小笛のこひしいか。
毛蟲、毛蟲、靑い毛蟲、
そなたはひとり何處へゆく。
*
(昭和25(1950)年新潮文庫「北原白秋詩集」 「思ひ出」より)
このクソ忙しい時期に実力テストの作問をせねばならぬとて徹夜をした。やっと自分の時間が取り戻せると思った頃には、アリスの散歩に母の見舞いに、夜の買出しに夕食の準備――これが僕が至っている現実である――これはもう毛虫の方がよっぽど自由だ――