母にキス
ついさっき、用があって夜、また母を見舞った(今日は昼も見舞ったから)――
別れ際に母の額にキスした――
「母さんがいなくなったら僕もいなくなるよ」――
と告げた――
母は泣きながら――
母「……大船の開かずの踏み切りを、あんたを背負って二日おきに膿の出たガーゼを替えに病院に行った……」――
僕「僕を背負ったのが今の病気になったのかも」――
母「そんな……あんたは頑張らなきゃ……」――
僕「だからさ、母さんも頑張らなきゃ」――
手を振って別れた――
……また武満のあの歌が……僕の耳鳴りの奥にずっと響いていた……
*
母にキスした最後は……もう僕は覚えていない遠い昔……一番愛している人には、なかなかキスはしないものだ、ということを……今日……僕は知った……
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