筋萎縮性側索硬化症ならぬ智萎縮性思索硬化症
この愚劣な日常にしがみつくことでカタストロフに眼を瞑ろうとする常動症に陥った神経症の多くの日本人は滅ぶしかないのかも知れない。
母が筋萎縮性側索硬化症だというなら、今の日本人の多くは智萎縮性思索硬化症である。
ずっと以前から分かり切っていた人災たるこの原発事故に拳を揮うことも出来ない愚民は、致命的な放射性物質が浮遊してきた時、その拳骨を口に押し込んで窒息するしかないのではないか。
チェレンコフの業火を手に入れた人類の終末――最後の審判への第一歩が、今、この日本で幕を上げたのではあるまいかという諦観を、無神論者乍ら、私の乏しい「智」は残念ながら悪い冗談として払拭することさえ出来ないでいる。
ガイアという生命体は、そこに寄生した、ガイアの体を幾度となく汚損し続け、繁栄めいた絶滅にまで増殖し、禁断の忌まわしい火まで手にしてしまった「人類」という――ガイアの体内に重篤な致命的症状を惹起させるチェレンコフ光を放つ病原体を持った寄生虫である「ダニ類」を――駆除する、ターミネートする決心をしたのかも知れない。
――いや――それはそれで――至極正しい判断である――と僕は昔から思ってきたのだ。言っとくが、これは僕がこの期に至って思いついた浅薄なことなんかじゃないんだ。それは今朝メールをくれた5人の教え子の感懐が請けあってくれるはずだ。
――さあ、静かに眺めよう。見定めよう。今日の夕日は、若しかするとコバルト色の美しいチェレンコフの夕焼けになるかも知れぬ。勿論、そうならないことをあなたがたのためには祈りつつ、ではある……
*
尾形亀之助は仙台在、そして仙台で餓死するように死んで行った。その尾形の「色ガラスの街」で僕がいっとう好きな詩は「不幸な夢」だ。
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不幸な夢
「空が海になる
私達の上の方に空がそのまま海になる
日 ―― 」
そんな日が來たら
そんな日が來たら笹の舟を澤山つくつて
仰向けに寢ころんで流してみたい
*
尾形よ――歩こう、預言者……