夜の病院 又は 洗礼名ルカ
原発の必要性を正当化するためだけの最愚劣な計画停電で病院は真っ暗だった――
母に逢いたくてやってきた――
自家発電で少しだけ電燈が点っている――
母は眼をつぶって苦しそうに息をしていた――
時々思いついたかのように眼を少しだけ開く――
「母さん、母さんの洗礼名は?」
「……テレジア……」
「僕はね、勝手に僕の洗礼名をつけたよ……ルカ……だ」
――微かな息の中で母は言った――
「……いい、名前ね……」
――と
――母に――母の唇に口づけして別れた――
――僕は漆黒の真っ暗な山道をベルディの「レクイエム」の冒頭を嘯きながら江ノ島の方へ下って行った……
――Tadashi Luka Yabuno
【2011年3月20日追記】……これが……僕と母の最後の会話、いや、恐らく母が人と交わした最後の言葉となりました……母さん、ありがとう!……直史ルカは……聖子テレジアだけを永遠に愛します……
« 業 | トップページ | 楽観は犬死である »