イワン・ツルゲーネフ原作 中山省三郎訳 生神様 終章
數週間の後に、私はルケリヤが亡くなつたといふことを聞いた。つまり死神が後から、……しかも『ペトローフキが濟んでから』やつて來たのである。人の話によると、臨終の日、ルケリヤは絶えず鐘の音を聽いてゐたといふ、――アレクセーエフカから教會までは五露里(り)の餘もある上に、その日は日曜日でも祭日でもなかつたのに。それにしても、ルケリヤはその音が教會からではなく、『上から』聞こえて來ると言つたさうだ、――おそらく、彼女は敢へて『天から』とは言はなかつたのであらう。
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僕のツルゲーネフ「猟人日記」中山省三郎訳「生神様」 (縦書版はこちら)より――
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……僕は母が意識を失う前から、そして失ってから……そして亡くなってからも……北海道で買った球形のドルイドの鈴を母の耳元で振り続けたんだ――母さん、きっと母さんも「天から」じゃあなくて――「上から」って思ったんだろうな――母さんはやっぱり――僕の大好きなルケリヤだもの――その鐘を打っていたのは――「少年」の無垢な、僕、なんだ――