指 山本幡男
昭和26(1951)年、ハバロフスクソ連邦矯正労働収容所第二十一分所にて。山本幡男が収容所内で秘かに始めていた回覧雑誌『文藝』に載った幡男の五七調文語詩。
指
わが指は
節くれだちて皺(しわ)よりて
老いにけらしな
若き日は
品よく伸びて美しく
埀乳根(たらちね)の母はも
己(おの)が指に似たりと
愛(め)で給ひしが
生業(なりはひ)の筆持つ指に
筆胼胝(ふでだこ)生えし
ニコチンの沁み入る指は
黄色く染まり
この皺に鏝(こて)かけて延す術(すべ)なし
この手もて
親子 姉妹(はらから) 十人の
生活(たつき)ささへし現世(うつしよ)の
苦を刻みたる皺なれば
うたても またいとほしく
時折は撫でて見つる
底本で辺見氏は『この詩は、ラーゲリの多くの人びとに愛誦された。「指」を口ずさみながら、みんなは故郷の父母や、兄弟姉妹たちへと思いを馳せたりした』と記す。
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