反復する下宿夢
僕には長い年月、反復して何度も見る夢がある。本未明も、それを見た。
*
今の僕である。ところが訪ねた場所は、36年前、大学一年の時に一年だけ居た渋谷代官山の三畳のボロ下宿だ。
そこには何と36年の間、僕の持ち物や本がそのまま放置してあるのだ。
[やぶちゃん注:ここまでがこの夢のマニエリスムである。この後は毎回バリエーションがあり、今日のパターンは今までに見られない展開を示した。]
下宿の老婆に平身低頭して、すぐに運び出しますからと答えるが、僕は今、右腕が利かないから、内心、どうしたものやら途方に暮れているが、手伝いますと数人の若者が来る。彼らは皆、僕の昔の教え子(高校生のままの)である。書籍は彼らに頼み、男子生徒にダンボールの手配を、女子生徒に本の棚卸しなどを頼む。
僕はとりあえず、不自由な右手で文房具や小物をナップ・ザックに押し込んでいる。
ところが、机の引き出しを開けてみると、何故か北海道の縄文・弥生時代の遺物とおぼしい小型の円盤状女面土器や手形・足形・環状土器の夥しいコレクションが出てくる。僕はその幾つかを選び出し、後はゴミ箱に捨ててまおうとした。そこに下宿のステテコ姿の老主人が現われ、口角泡を飛ばしながら「これは貴重なものだ。高く売れるぞ!」と頻りに惜しがる。爺さんは、俄かに指揮者となって荷物のまとめを手伝い始める。
その時、廊下を学生服やセーラー服を着た地方の学生が、荷物を持って賑やかに通るのが見えた――僕はその時、しみじみ思ったのだ……
『ああ、僕の後釜たちがやって来たんだな……みんな純情可憐な表情をしているな……さあ、彼らのためにも、僕はこの部屋を明け渡さなきゃいけないんだ……』
*
今日と明日は教員免許状更新講習である。僕には何となしに、この夢の意味が分かったような気がする。