君ほほえまば 土岐仲男
君ほほえまば
君ほほえまば
よろず花
恥じらうごとしと
帝詔(の)りし
かの虞美人のほほえみも
かくはありしか
たまゆらの
かの君えみしほほえみは
瞼閉づれば
眼の底に
眸あぐれば大空に
桜色せる頰もみな
濡れしが如き唇も
象牙の如き白き歯も
焼くるがごとく鮮かに
触るるがごとく迫りつつ
うららひろごるかなしさよ
ああたまゆらの
かの君の
かくもかなしきほほえみを
胸ぬち深くひたかくし
野辺にい向い
ただ一人
すべなく口笛(ふえ)を吹けるかな
[やぶちゃん注:「口笛」の二字で「ふえ」と読ませている。]
« × 土岐仲男 | トップページ | 「寺」 土岐仲男 »