スキャンベンジャーズの群 土岐仲男
スキャンベンジャーズの群
死臭に集まる敵影に
爛々たる警戒のひとみを凝らしつつ
腕の利鎌(とがま)を
腐肉に打ち込み
打ち込み
腐肉の美味に身を打ち慄わせ
歯をならす
汝スキャンベンジャーズの群よ
昼は太陽(ひ)をおそれて
木の根の黴に身をひそめ
宵闇と共に
欣嬉雀躍して這い出ずるもの
地軸の朽ちるその日にも
ああ汝等は
汝等は
銀色のほの暗い月光の下で
あらゆる獣類の腐肉に埋もれて
濁った血液の乾杯を挙げ
神々の恩寵をことほぐであろう
[やぶちゃん注:「スキャンベンジャーズ」は<Scavengers>で、表記は「スカベンジャーズ」が正しい(本来は英語教師だった酒詰先生に言うのもなんなんですが)。<Scavenger>【skˈævɪndʒə】は可算名詞で、「腐肉食動物」の意。一般には腐肉を食う動物であるハゲタカやジャッカルなどを指すことが多いが、ここで酒詰先生が想定しているのは、「腕」に「利鎌」を持ち、「歯をならす」動物で、「昼は太陽(ひ)をおそれ」る「宵闇と共に」「欣嬉雀躍して」出て来る夜行性で、その体軀は「木の根の黴に身をひそめ」ることが出来るほど小さい、その動きは「這い出ずる」と表現するようなものである。これは最早、昆虫しかいない。これら総ての条件と一致するのは、ただ一つ、鞘翅(甲虫)目カブトムシ(多食)亜目ハネカクシ上科シデムシ科 Silphidae のズバリ、シデムシ(死出虫)類である。英名も<Carrion beetle>(腐肉を食らう甲虫)。以下、ウィキの「シデムシ」より引用する。『シデムシは、動物の死体に集まり、それを餌とすることで有名な甲虫である。名前の由来は、死体があると出てくるため、「死出虫」と名づけられたことによる。また、死体を土に埋め込む習性をもつものもあるため、漢字では「埋葬虫」と表記することもある』。体長は三ミリメートルから三センチ内外。『頭部には大顎がよく発達する。触角は先端がふくらんでいる。体は平たく、黒っぽいものが多い』。『体型は、モンシデムシ類は前胸は丸っこく、同体はほぼ後ろがやや幅広い台形、羽根の後端から腹部末端が覗く。多くはつやがあり、黒っぽい羽根に黄色の斑紋をもつものもある。ヒラタシデムシ類は全体が小判型で、黒い艶消しの体をしており、やはり羽根の後ろから腹部末端が覗く』。習性は『そのほとんどがその名の通り死肉食、あるいは死体で繁殖するハエの幼虫を捕食するなど動物の死体に依存した生活を送る。中には動物の糞で繁殖するハエの幼虫をもっぱら捕食しているものもある。また、死体だけではなく、腐敗したキノコやその他の腐敗物に集まっているのも見ることがある』。『幼虫も同様のものを食物とする。ヒラタシデムシ類のように幼虫も単独自由生活で餌をあさるものもあるが、成虫が幼虫を保護する習性が発達しているものもある』。特にモンシデムシ属 Nicrophorus の『シデムシは、家族での生活、すなわち亜社会性の昆虫である。雌雄のつがいで小鳥やネズミなどの小型の脊椎動物の死体を地中に埋めて肉団子に加工し、これを餌に幼虫を保育する。親が子に口移しで餌を与える行動も知られており、ここまで幼虫の世話をする例は、甲虫では他に見られないものである』。『なお、この死体を土の中に埋め込む行動については昆虫学者ファーブルの興味を引き、昆虫記の中で様々な実験を行なってその習性を検討している』。因みに、たまたま調べたウィキの「腐肉食」には、「古人類は屍肉食いであったか」という項目の下、米国ユタ大学の研究者が二〇〇四年に『初期人類は、動物遺体から屍肉を集め、石を使って骨を割り、栄養価の高い骨髄を得ることを生息手段とする、一種の腐肉食動物であったとの仮説を提唱した』。『人類は競合者に先駆けて動物遺体を手に入れるため、発汗による高い体温調整能力を始めとし、弾性のあるアキレス腱や頑丈な脚関節といった「速いピッチでの長距離移動の能力」を進化させ、広い地域を精力的に探し回る者として特化したとするものである。このような適応の傾向と栄養価の高い食物が大きな脳の発達を可能にしたのではないかと説い』ているという記載があった。「太陽(ひ)」は二字で「ひ」と読ませている。――酒詰先生、先生は予言されていたのですね、人類もスカベンジャーだったと。――]