五条坂 土岐仲男
五条坂
街吹く白い秋風が
わたしとあなたを吹き通り
愛宕の蒼ずむ頃だった
痩せイヌが来て追いこして
あとは静かな街だった
たかなる胸の鼓動まで
きこえるほどの静けさよ
何を考え何を言い
どうしてそこまで来たのやら
前もうしろもぼけている
ただ青春の一ト時に
いつか歩いた五条坂
今日も秋澄む高空に
いつかの雲が流れてる
三十年の年月が
わたしとあなたを押しへだて
悔恨に似てほのぼのと
うずく心をかきいだき
ひとりさまよう五条坂
千里を走るトラックが
ならす警笛恐ろしや
思わず深き夢やぶれ
慌てる古都のエトランゼ
シャッポをぬいで手を振って
ぐるっとまわってサヨウナラ!
[やぶちゃん注:二行目「愛宕の蒼ずむ頃だった」は底本では「愛宕の蒼すむ頃だった」であるが、私の判断で濁音化した。この詩も、私は一読、胸がキュンとなる。]