老子 土岐仲男
老子
老子はそこにいた
老子はそこにない
青い煙が漂い
その中から金鉱が燦と輝く
カラカラと大笑して
老子は出て来た
そこには人類の玩具
スプートニックが飛んでいた
「今いるのはどこだと思う」
老子は私に問うた
「わかりません」
と私は素直に答えた
「木星の上さ」
老子は答えた
続いて劇しい目まいがして
やっと私は立直った
「今いるのはどこだと思う」
老子は私に問うた
「わかりません」
と私は素直に答えた
「N宇宙のN星の上だよ」
老子は答えた
「生命について述べて下さい」
私は耐まり兼ねて訊ねた
「私はお前の中に生きている」
老子は即座に答えた
そこで老子である私は叫んだ
「絶対に住み
絶対を着
絶対を食う時に
虚無――
なくてある世界
人類はそこに行き着くのだ」
[やぶちゃん注:スプートニク1号は1957年10月4日に打ち上げられ、以降、人類初の人工衛星計画として動植物の生存帰還を果たしたスプートニク5号(1960年8月19日発射、翌日軟着陸回収)まで続いた。Спутник( Sputnik ・スプートニク)というロシア語の原義は「旅の道連れ」「つきもの・付随するもの」の謂いで、これより「衛星」そして「人工衛星」という意味を持つようになった。]