伝説 土岐仲男
伝説
私の息子よ
このことだけはよく覚えていておくれ
お前のお祖父(じい)さんは
物好きな人で
オーロラと言うボロ船を買って
家を何軒か売ってそれを艤装し直して
夫婦者の船員を幾組か乗せて
あれは千九百十年代のことだった
その何月の何日だったか
今の束京港当時の芝浦岩壁から
南方へ向って旅立たせたのだ
その船はある鉱物を探しに行った
いいかい
神戸港か横浜港に
オーロラと言う名の不思議な船が入港したと
新聞に出たら
それはお前か
お前の子供達
あるいは孫達のものなのだ
それは素晴しい鉱物を積んで戻って来る
忽ちお前は世界有数の富豪の一人になるのだ
オーロラと言う船だよ
その名をよく覚えて置けよ
お祖父(じい)さんの代には遂に戻って来なかった
私の代にも未だ戻って来そうにない
然しお前の代には
いやお前の子の代には
孫の代かな
オーロラは必ず戻って来る
オーロラと言う名を忘れるんではないよ!
[やぶちゃん注:「艤装」は「ぎそう」と読み、一般には船舶に限らず、自動車や鉄道等の製造過程に於いて、原動機や車室内外の各種装備品等を本体に取り付ける工程を言う。――この詩は、先生――遙かな未来の徐福――永遠の未来のニライカナイ――永劫のカーゴ・カルトを夢見た詩ですね――]