しづさん、僕は誤っていなかったね……
鈴木しづ子の現存する最後の自筆句稿に当たるのは昭和27(1932)年9月15日附、その前が同年9月9日附のものである。川村蘭太「しづ子 娼婦と呼ばれた俳人を追って」(新潮社2011年1月刊)の巻末「鈴木しづ子 全句」によってその表記を見ると、後者では「団扇」を「團扇」、「売らじ」を「賣らじ」、「鶏頭」を「雞頭」、「点ずる」を「點ずる」、「油蝉」を「油蟬」、「醤油」を「醬油」、「灯」を「燈」、「美観」を「美觀」、「虫」を「蟲」と表記している。最終稿でも「虫」を「蟲」、「昼」を「晝」、「台風」を「颱風」(しづ子の好んで用いた語でこの表記は以前から一貫している)、「数」を「數」、「蝉」を「蟬」、「躯」を「軀」、「団扇」を「團扇」(但し、一句のみで他の五句では「団扇」とする)と表記している。これらからしづ子の詩想にあっては、昭和27(1932)年の時点にあってさえ圧倒的に正字のイメージが優位性を保持して奔流していたことが立証されると言ってよい。
……しづさん、僕が貴女の選句集を、そして、ここでの選句をすべて正字化していること、許して頂けますね……