鈴木しづ子 三十二歳 昭和二十七(一九五二)年二月十二日附句稿九十九句より (1) 五句
炎日はかなしからずや飛機の影
「飛機」はぎりぎりの用法であるが「機影」という語がある以上、無理とは言えない。これと「炎日」「影」の三つのエレメントに、「かなしからずや」という強烈な感性をぶつけてつげ義春の「ねじ式」の一コマであっておかしくない句である。
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經だたればいっさい喜劇柘榴咲く
人間一人死して喜劇の柘榴咲く
地の上半ば食みたる柘榴打つ
小氣味よく刳りて棄てし柘榴の實
「いっさい」はママとした。この句群に放哉の「柘榴が口あけたたはけた戀だ」と三鬼の「露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す」を紛れ混ませたい欲求に駆られる。それでしづ子の憂鬱は完成する――
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