鈴木しづ子 三十二歳 昭和二十七(一九五二)年三月八日附句稿二百十六句より(5) 十句
春の日の草履袋を振りつつ振りつつ
ランドセルがたごと櫻とつても綺麗
下校時櫻折つてはいけません
先生に言ひつけよつと晝櫻
先生と踏切りを越え晝櫻
驅けて驅けて下校の櫻吹雪かしむ
晝櫻町角に言ふさようなら
簷に葉に春日さんさん坊やはいくつ
復習はもう済みました晝櫻
お八つ頂戴さくらが散つて散つてきて
新春の陽射し、桜並木の中を駆けてゆく子ら、しづ子の優しい視線に満ちた句群である。これは連作として読むとき初めて、彼女の限りない慈悲の眼が、分かってくる。これは単独句では決して伝わらない。今、私は、しづ子の俳句は独自の連作句法の観点から、再評価されなければならないとしみじみ思う。ここは総て表記をママでとった。「復習は」の「済みました」は当時の小学生の気持ちになり(新字体表記を公用とする「当用漢字表」の公示は昭和二十一(一九四六)年十一月十六日)、正字にしなかった。以下、百三十六を残すが、私の琴線に触れるものは、残念ながら、ない。