鈴木しづ子 三十二歳 昭和二十七(一九五二)年一月二十八日附句稿百句より (2) 十三句
倶樂部在り春の雪ふる水ほとり
ひとごゑやストーブ燃えし四つの隅
品定めはじまるらしき雪ちらつく
品定めさるるに狎れし雪ちらつく
雪ちらつくみだらに了る品定め
倶樂部の奥寐室在るや雪ちらつく
ことさらに寒き寐室人を招ず
踊り場に靴がころがる雪夜なり
玻璃透りて雪がちらつく脱げし靴
靴脱げしジルバ続くや雪ちらつく
うす絹やハバネラ踊る雪ちらつく
連続する十一句を採った。今後、当たり前のことを二度とは言わぬ――
――「鈴木しづ子は娼婦ではない。ダンサーである。」――
しづ子の勤めるダンス・ホール――だから四隅にストーブ――しかし、今日の客の米兵はあたしとダンスを踊る奴は、いそうもないわ、あの眼――早くも接待婦の品定めが始まった――生と性に疲れて、ホステスの女たちは、もうすっかりその忌まわしい獣の視線に狎れきってる――みんなペアで奥へ行っちゃった――さて! じゃあ、雪のちらつく今夜は――しづ子の、誰もいないオン・ステージ――たった一人のジルバとハバネラ――
*
天暗く若死に以て星流る
春めく夜回想の星失せしめぬ
……詮索はやめよう……しづ子だけの回想を……そっとしておこう……
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