鈴木しづ子 三十二歳 昭和二十七(一九五二)年一月二十日附句稿二百十二句より (2) 伊勢参宮志摩鳥羽遊覧句群七十数句から十句
この句稿中には七十数句に及ぶ、直近の伊勢参宮と伊勢志摩鳥羽遊覧の羈旅嘱目吟が並ぶ。しづ子にしては珍しく歌枕を散りばめ、ほとんどが素朴な写生句である。おそらく吟行帳にリアル・タイムに記したものをそのまま引き写したもののように見える。私がその句群の最初と最後(岐阜着)と考える句と他数句を示す(「御酒享けし」の「双」は正字にしなかった)。
初詣での人の中なる伊勢路かな
二つの宮へだて在すや白椿
御酒享けし双手冷え冷え裹みけり
冬の苑のみなそこ深く鯉呼べり
暴れあとの波立ち寒し夫婦岩
初日の出待つ掌の中の石一つ
鳥去りにし霧のふなばた冷えにけり
冬晴れやかちどきに似し波がしら
立てばここ驛は月下の陸の果
正月の旅をへにけり手の疲れ
「立てばここ」の「驛」は鳥羽駅、「陸」の読みは「くが」であろう。これだけの句を吟じて夜行で来て夜行で帰る二日の旅でこの膨大な句を記せば――これは確かに「手の疲れ」が目から鱗――しかし――久々の旅情を得て帰宅したしづ子を待っていたのは――愛するケリーの訃報であった――
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