鈴木しづ子 三十二歳 昭和二十七(一九五二)年二月二十一日附句稿九十四句より 五句
濃しといふ女帝いたゞく國の霧
葉の上に春の露をく貴族の死
句稿巻頭句二句。この投句の十五日前の二月六日、イギリスでエリザベス二世がイギリス連邦(イギリス王国十六箇国)女王元首にしてイギリス国教会首長に就任している。彼女はしづ子より七歳年下で、満二十七歳での即位であるが、これはしづ子が詐称した年齢にほぼ等しい。後の句は一句目とは無縁な本邦の貴族の死かも知れないが、組句ととるなら、同じく二月六日の夜、冠状動脈血栓症で急逝したエリザベス二世の父イギリス王ジョージ六世ととることも可能である。五十六歳であった。
*
露けさの吾が室が待つすべての夜
本句群の前半は、既句の改案がひどく目立つ。孤独な自室に戻るというシチュエーションも既出モチーフであるが、これは一読、下五が鋭い。
*
リトマス紙はさむ餘寒の指のひま
雪の日のリトマス試驗のこと憶ふ
この二句、聊か気になる句ではある。現在でも妊娠検査にリトマス試験が有効がどうかを問う質問がネット上に散在する。勿論、リトマス試験紙では分からないのだが、今でさえ、そのような認識があるとすれば、しづ子の持つリトマス紙は、そのようなものとして示されているととられても致し方あるまい。但し、二句目では、この「リトマス試驗」が過去の事実として扱われており、これが女学校当時の雪の白き景色の中の化学の実験での、鮮やかに色の赤く、青く変わる様の不思議を追懐して素朴に詠んだとしても決して可笑しくはない。しかし、例えば、仮に前の一句のみが撰されれば、これはもう、私の言う『俳句の病い』を逆手にとったとも、しづ子「伝説」への確信犯の思わせ振りの句とも言えよう。
*
寒き夜の卵割らしむものの角
下五「ものの角」の喝破にしづ子らしさがある。いい句だ。
« 鈴木しづ子 三十二歳 昭和二十七(一九五二)年二月十六日附句稿八十七句より 十九句 | トップページ | 鈴木しづ子 三十二歳 昭和二十七(一九五二)年二月二十六日附句稿百七十三句より 十二句 »

