鈴木しづ子 三十二歳 昭和二十七(一九五二)年四月十五日附句稿二百十七句より(1) 於神田神保町西神田倶楽部 鈴木しづ子第二句集『指環』出版記念会 感懐句群 二十九句
帶京の夜の花とはなりにけり
氣疲れや飯をくるめしとろろ汁
湯の音も絶えてしまひぬ旅の膳
旅の夜や海苔がくるみし熱き飯
品川の宿の夜櫻海苔の膳
靑海苔や泊り短く發ちにけり
花の穹感激もなく雲流れ
紅茶冷えよくしやべる男だな
それと見し性の異ひや夜の紅茶
よはひ覆ふすべもなかりし夫人かな
眼鏡してオレンジジュースひややかに
ソーダ水眼鏡の奥に性をよむ
醫學者や眼鏡ひかりて夜の紅茶
花一日人らつどひてくだらなく
東京に靑穹を見し花ちかく
眼鏡せし夫人のこころ解せぬなり
眼鏡して蔑すみゐるにちがひなし
恃むなし離京の汽車に目つむれば
東京の花のひらきや愛着はなし
花いまだおもしろからぬ離京かな
ともかくも義理を果たせし櫻かな
*
ソーダ水上目づかひに見られつつ
*
ソーダ水眼鏡透りし伏目の眸
眼鏡して夫人はちらよ見たりけり
*
帶京や神田籠りの花の穹
花の街目的もなく鞄提げ
東京は汗ばむほどの櫻かな
*
眼鏡せし夫人をうとみつづけたり
眼鏡せし夫人の方は眸をやらず
昭和二十七(一九五二)年三月三十日に神田神保町西神田倶楽部にて催された鈴木しづ子第二句集『指環』出版記念会に出席したしづ子の感懐句と思われる句をほぼ総て拾った。「*」を挟んだ後ろの七句は、それぞれ少し後の方に思い出したように登場するものであるが(「*」は断続点に打った)、最初の二十一句は句稿の冒頭から総て連続する。――これらはその時の、さめた――「冷めた」であり「覚めた」であり「醒めた」であり「褪めた」である――しづ子の総てだったのだ――
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