ぼろぼろな駝鳥 高村光太郎
何が面白くて駝鳥を飼ふのだ。
動物園の四坪半のぬかるみの中では、
足が大股過ぎるぢやないか。
頸があんまり長過ぎるぢやないか。
雪の降る國にこれでは羽がぼろぼろ過ぎるぢやないか。
腹がへるから堅パンも食ふだらうが、
駝鳥の眼は遠くばかりを見てゐるぢやないか。
身も世もない樣に燃えてゐるぢやないか。
瑠璃色の風が今にも吹いて來るのを待ちかまへてゐるぢやないか。
あの小さな素朴な顏が無邊大の夢で逆まいてゐるぢやないか。
これはもう駝鳥ぢやないぢやないか。
人間よ、
もう止せ、こんな事は。
(「猛獸篇」より)
*
だから駝鳥は或朝とつとと走つて逃げだすことにしたのだ
にんじん、分かるだろ?――
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