鈴木しづ子 三十二歳 昭和二十七(一九五二)年三月三十日附句稿百五十六句より(4) 十二句
一つ死のぬぐふあたはぬ霧笛かな
一つの死月のコスモス地を匍ひ
一つ思やつねたたしむる月夜霧
霧たてばおのれならざる思の狂ひ
めぐる思や霧の朝霞は曉けにけり
霧笛起つ抱き深さのかひな裡
一つ思と乳房くるまば霧たつか
霧たてばかたちなきものかい抱く
霧衣うつし身の肩冷えにけり
かひな觸る想ひのみかは霧衣
悲しめば吾が體一つの霧笛かな
霧たてば見えざるこゑに體こそ投げ
先に挙げた「霧たてばおのれならざる思の狂ひ」の前後に存在する、ハリー・クラッケ追悼句群の推敲・改稿句を拾ってみた。ここにはしづ子の連想法の特異性がよく示されている。特に「一つの死」が「一つの思」という通音で意味が変容してゆく過程は面白い。漢字も音数律から特異な読みで変化を持たせようとしているのが分かる。しかし――しかし――その絵の真ん中には――濃い霧の中に――独り立ち尽くすしかない孤独なしづ子だけが――見える……
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