鈴木しづ子 三十二歳 『樹海』昭和二十七(一九五二)年六月号掲載句全四句 貝殻
この全四句には表記通り、掉尾の句から「貝殻」という標題が附けられているが、以下に私が投句稿の日附を( )で示したように、この「貝殻」というのは巨湫による恣意的な仮想標題であり、句群としての集合性は実は全くない。『樹海』だけを我々が読むと、これらの句を「貝殻」という連続したソリッドな有機体として読み誤ることになる。そこは大いに注意しなくてはならない点であると私は思う。
貝殻
この星や浮塵子の如く家郷なし (三月十一日附)
眞對へば陸が近づく花菜の黄 (四月十五日附)
人の子や親しめば柿柚子など呉れ (一月 二日附)
秋風裡掌に容れし貝殻散らす
なお、この標題とされた掉尾の句――私はこの句が好きだ――は、大量投句稿の中に見出すことが出来ない。「秋風裡」はしづ子の好きなフレーズであったと思われ、前年の昭和二十六年十一月二十九日附投句稿に、
秋風裡女體の息を想ふこと
があり、同じく書き溜めた前年の句柄と思われる、季節外れの昭和二十七年三月三十日附投句稿にも、
秋風焜爐の■に炭碎き
(「■」は底本の判読不能を示す記号)が、また、大量投句稿の日附不明の部にも、
秋風裡わさびきかせの鮨を喰ふ
がある。これらから、しづ子には現在知られる大量投句稿以外に散佚してしまった句稿群が存在することが分かる。それは、最早、俳句に何の関心も持たない子孫によって、誰かの亡き父や祖父のがらくたと一緒に、今もどこかの筐底に紙魚に喰われつつあるのであろう……
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