鈴木しづ子 三十三歳 昭和二十七(一九五二)年七月二日附句稿百五十八句より(4) 蟻三句
蟻の眼に水のかがよひ美しき
子の指がねらひし蟻のすべてを殺す
夜の蟻迷ふかぎりを迷はしむ
『指環』の掉尾から三つ目「蟻の體にジユツと當てたる煙草の火」で知られるが、しづ子には蟻の句が断然多い。そんな中でこの蟻の眼に」のような俯瞰ショットでなく、水に落ちた蟻の目線で詠んだものは珍しい。「この指が」の句、ずっと昔読んだ漫画に、少年が巣に戻る蟻を親指で悉く潰し続け、母に呼ばれて、家へ帰るのだが、最終コマは笑顔で走ってゆく少年の前方からのアオリのショットで、その背後の天空から巨大な手が親指を向けて降りてくる――というのがあった。この句は、少なくとも蟻からのアオリの映像が見える――「頑是無い」子供の無邪気な殺意の「愛くるしい」表情が――見える。「夜の蟻」はそのシチュエーションと語彙の選択、厳然たる写生性がオリジナルで面白い。――えっ? 大丈夫、御安心なさい――この前の句でしづ子は「土に還さしむ」と詠んでいますから――
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