鈴木しづ子 三十二歳 昭和二十七(一九五二)年三月三十日附句稿百五十六句より(2) おはじき玉ガラス缺けつつ草萌え耒
おはじき玉ガラス缺けつつ草萌え耒
『それからまた、びいどろといふ色硝子で鯛や花を打ち出してあるおはじきが好きになつたし、南京玉が好きになつた。またそれを嘗めて見るのが私にとつて何ともいへない享樂だつたのだ。あのびいどろの味程幽かな涼しい味があるものか。私は幼い時よくそれを口に入れては父母に叱られたものだが、その幼時のあまい記憶が大きくなつて落魄れた私に蘇つてくる故だらうか、全くあの味には幽かな爽かな何となく詩美と云つたやうな味覺が漂つて來る。』(梶井基次郎「檸檬」より。下線部は底本では傍点。)