鈴木しづ子 三十三歳 昭和二十七(一九五二)年六月十五日附句稿百六十五句より四句
梅雨降れり混血の子がうようよと
父にもち黑人兵を死なしめし
雪美しき國への帰化を希ふとか
ゆく雲や妻を愛せば帰化ならむ
「梅雨降れり」の「混血の子が」は底本「混血のるが」であるが、以上のように独断で変えた。上五も何だか座りが悪い。「父に持つ」ではありまいか。「父にもち」の句の「死なしめし」は底本「死ふしめし」。訂した。以前、しづ子が頻繁にこうした混血の児童や孤児を保護した施設を仕事の合間に訪れていたように思うと書いたが、やはりそれを感じさせるもので、生活句の中にぽんと放り込まれた連続する二句である。
後の二句も連続する二句であるが、これもおや? っと感じさせる句である。この「雪美しき國」は日本、ダンス・ホールで「日本人のワイフを愛しているから帰化しようと思う」としづ子に語りかけているのはクラブへやってきたGIということになろうか。
この句稿、冒頭で勤め先の集団性病検診の景を詠んだり、「靑蔦」や「梅雨」「セル」の多量連作句が並び、見た感じがそれら「蔦」「梅雨」「セル」の文字が恰も総譜の通奏低音のように見えたりもするのだが、残念ながら私の琴線に触れてくるものはなかった。
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