鈴木しづ子 三十二歳 昭和二十七(一九五二)年五月六日附句稿七十七句より 三句
形りあらば地(つち)抛つものをわが詩心
五月雨や執念絶つにすべはなし
山形の砂の面てや蠅生る
一句目は難解である。「なりあらばつち/なげうつものを/わがししん」ととりあえず詠みたい。「なげうつ」を音数律で「なりあらば/つちうつものを/わがししん」とも読めるが、採らない。――実体があるものならば、この固い「現実の土」の面へ、投げうって、こなごなに完膚なきまでにうち砕いてしまいたい、私の詩心――。二句目。しづ子の投句は決して書き溜めた古句想ではないことが分かる。そして「執念」は今も、ある――。三句目。安倍公房の「砂の女」の反転。――砂の山は擂鉢状に逆に屹立している――その崩れる砂――砂――砂――そこから這い出してくる蛆――蛆――蛆――そこから羽化する蠅――蠅――蠅――無数の蠅――それはしづ子というどっこい生きてる執拗(しゅうね)き蠅――
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