鈴木しづ子 三十三歳 『樹海』昭和二十八(一九五三)年二月号しづ子詐称投句全掲載句
紫陽花の門の裡なる祝ごと
悲劇はこの世だけでいいスクリーンの白雪
光る星以外の星も凍てにけり
この土地の雪に馴染まず牛鳴けり
[やぶちゃん字注:中七は底本では「雪に駒染まず」。ママ注記はないが、如何にもおかしい「馴染まず」(なじまず)の誤植ではないかと感じ、調べたところ、案の定、一月二日附投句稿にあり、「馴」とある。訂した。]
雪つけてゆびきりの指幼なしをさなし
二句目「悲劇はこの世だけでいいスクリーンの白雪」はしづ子の句としては、二冊の句集未収録句ながら、しばしば引用される句である。私は一読の直感であるが、これはマーヴィン・ルロイ監督ヴィヴィアン・リーとロバート・テイラー主演の「哀愁」“Waterloo Bridge”ではあるまいかと感じている。本映画は1940年製作のアメリカ映画であるが、本邦での公開は昭和二十四(一九四九)年三月である。あの映画のコンセプトは不思議に兵士ケリーとの恋に落ちたしづ子及び娼婦俳人などと呼ばれた「しづ子伝説」と妙に合致する作品なのである。私の好きなヴィヴィアン・リーとしづ子――何よりこの組み合わせが私を惹きつける……