鈴木しづ子 三十四歳 『樹海』昭和二十九(一九五四)年九月号しづ子詐称投句全掲載句
香ぐはひ
香ぐはふ梅くちにのぼりしひとつこと
なしをへし文の重みぞ香ぐはふ梅
雪つけど觸るるべからずお師の眉
師が手とつむ春雪とすべもなし
香ぐはふ梅かぐはふ體(み)ぬちことひとつ
蹴る春雪こころいちづに在りし吾が
體(み)ほとりの梅ぞかぐはふととせかな
風花やむかしのおのれ殘すなし
すべてこと師にぞしたがふ香ぐはふ梅
三句目は、『樹海』昭和二十八(一九五三)年四月号しづ子詐称投句の、
雪つけど觸るるべからず御師の眉
の「御」を「お」に変えて、例外的に再掲されたものである。通常の俳誌の投句選句ではあり得ないことである。詐称している巨湫にしてみれば、これは詐称投句を大疑わせる大きな証左となろう。尚且つ、この九句は巨湫によって組み立てられたと考えられる、「しづ子」の秘めた(いや、もはや赤裸々に露呈された)巨湫自身への恋愛感情を核心としていることを、読者は容易に感じ得たはずである。巨湫はもうどこかで詐称を確信犯として、意識しなくなっていたようにも思われる。そうして見た時、この連作の標題「香ぐはひ」というのは、言わずもがな(と私には感じられる)例の「まぐはひ」という語――しづ子独特の詩語――をも連想させるではないか――梅の香ぐはひ――それは巨湫としづ子の――魂の交接であった――
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