鈴木しづ子 三十四歳 『樹海』昭和二十九(一九五四)年五月号しづ子詐称投句全掲載句
崖の底
強からぬ爐の燃えゆきを一日とす
風の頭輕く叩く握り拳の手
手をおくや對ふ人なき月夜の餉
惜しむなきいのちをさらす月の前
月光と死とかかはりのあらざるも
堕りし雪の碎け散りなむ崖の底
――選句する巨湫の中に大きな変化が起こっている気がする――どれも、選句する巨湫の側に――ある何やらん不思議な「覚悟」がある――則ち「選句」という作業が、不可思議な――あるしづ子の実相を剔抉しているのだ――そこには二句目のような現実のリアルな実像を挟んで、美事である……私は選句のという行為の「創造性」に今更ながら、気づいたことを告白しておきたい――この憎い「崖の底」という標題も含めて――途轍もなく――素晴らしい――
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