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« 鈴木しづ子 三十三歳 昭和二十七(一九五二)年九月九日附句稿三十句より 四句 | トップページ | 新編鎌倉志卷之七 慈恩寺詩序 教え子の援助により注釈完成 »

2012/01/07

鈴木しづ子 三十三歳 昭和二十七(一九五二)年九月九日附最終投句稿四十句全句

 遂にやってきてしまった。――現存し、期日の明白な、しづ子の最後の投句稿である。――ここは総てを底本の表記そのままに掲載する。――この投句稿を最後として、鈴木しづ子は永遠に我々の前から姿を消した。――鈴木しづ子――現在まで、行方不明――今、二〇一二年一月七日現在、生きておられれば、九十二歳になられるはずである……

 簷に葉に二百十のしづかな雨

 降るになく吹くにあらざる危日の葉

[やぶちゃん注:「危日」とは九耀(すくよう)で言う何事にも危険が伴う日のことか。その手のページには、旅行は不適であるが、逆に人から勧誘や社交運は活発となり、吉運を呼び込めるとあり、会合や繁華な場に身を置くのは吉とされるらしい。但し、本来が凶の傾向を持つことから、対人トラブル・事故・負傷・行き違い・擦れ違い等に注意せよ、とある。それとは別に妊娠危険日を女性の隠語でこうも言うらしい。一応、記しておく。]

 吹きとほす危日ちかづく竹■葉

 炊ぐ飯二百十日も過ぎにけり

 一匹の蟲鳴きつづく晝の雨

 魚焼きて一日ごもりの秋の雨

 ひらくとき秋の日傘となりにけり

 擦れちがふとき片蔭をゆづられし

 秋の陽に双つ腕を焼かしめて

 秋の雨夕べのごとくこづかなる

 堤防を崩せしほどの梅雨出水

 暁より梅雨の濁流橋くぐる

 泳ぐよに蜻蛉いできし雨のあと

 吾にいたりて■木の家係崩れたり

 颱風のありし地上に蚯蚓死す

 緑の下にまで秋風があふれゐて

 秋風裡手にもてあそぶマッチの箱

 つゆ草を踏まじとおもふ草の中

 やうやくに暑さうすらぐのぼり蔦

 青蔦の葉のいつぱいの西日かな

 をりをりはおもはせぶりな雲間の陽

 數を教ふどんぐりをもて一つとし

 捉へきし蟬を与へて泣くをなだむ

 わが坐せば簾むかふの秋の風

 秋めく風姉は虚栄に走りけり

[やぶちゃん注:この「姉」とはしづ子を指し、措定される妹は堅実な生を全うした実妹正子(しづ子は彼女の年齢を詐称したと考えられている)のことを念頭に置くものであろう。]

 姉妹あり秋の落日けんらんと

 小説中つねに嬌るは姉娘

 小説においても嬌るは姉娘

 死にぎわの蟻が必死に軀を廻す

 風ゆれの葉に一匹の蟻を■し

 秋燈下にて消しゴムをさがしをり

 秋風裡萬年筆にイレワ缺く

[やぶちゃん注:これは万年筆のインク補充のための着脱部分に入っていた、恐らく金属の輪っかがなくなっていることを詠んでいるように私には感じられる。]

 とほければ團扇を取りてもらふ

 るの裸身金魚のごとしたゆまざる

[やぶちゃん注:「るの裸身」は不審。「この裸身」「かの裸身」「その裸身」「ゐの裸身」又は「ゑの裸身」か。句としては「この」でありたい。]

 差出されし朱け色きるき団扇の板

[やぶちゃん注:「きるき」は誤読であろう。「しるき」か。]

 みづ色の団扇をつかふ人とゐる

 眠るともなく団扇をつかふともなく

 ひと夏の裏みこまひたり

[やぶちゃん注:「裏みこまひたり」は不審。「裹みしまひたり」ではなかろうか?]

 夏逝くや朱色きつき団扇の板

 豪雨とはいへざるまでも標格の雨

 [やぶちゃん注:掉尾の句。「標格」不詳。地名ではなさそうである。失礼ながら誤読か。原本が見たい。]

……しづさん……あなたは最後の最後まで……謎を残して去ってゆくのですね……でも、私は……川村氏のようには、「もういいよ」というあなたの声が聴こえません……私はあなたを探し続けます……

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