鈴木しづ子 三十三歳 『樹海』昭和二十八(一九五三)年五・六月号しづ子詐称投句全掲載句
美濃は好し冬は水辺の歸り花
人間の貌に似てきし老いたる犬
鳰を見るひとにをしふることもなく
この徑の行き盡くまでの蓬とも
本号の選句は明らかに前号までの選句と異なる。しづ子の句は孤愁と死の影を暗示させるものが多いことは事実だが、先の子らを詠唱した作に見るように、その中には小春日のような温もりの句を見出すことは決して困難ではない。勿論、数句を採るにそこに共通のコンセプトを持たせようとするのは、巨湫に限らぬ普通の選句者の教育的立場でもあろう。にしても――である。前号の優しい母性の眼差しを一変させて、語彙も映像もすっかりモノクロームの愁と死のモンタージュに変えたこの選句はどうだ。
そうして――実はこの後、翌昭和二十九(一九五四)年二月号刊行までの、七ヶ月に亙ってしづ子の句は『樹海』に掲載されないのである。――
なお、特にこれ以降の『樹海』に見るように巨湫は詐称投句群に総標題を附し始める。これは今に始まったことではないが、それが顕著になる。しかし私には、これは共時的に投句されたものを掲載しているのではないという真実を隠蔽するための姑息な手段にしか見えないのである。
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