鈴木しづ子 三十三歳 昭和二十七(一九五二)年八月三十日附句稿五十五句より(2) 空飛ぶ円盤二句/天文少年二句
夏の夜や少年が見し「空飛ぶ円盤」
空飛ぶ円盤見てこと告げむと駈けて來たり
夏の夜の天文學の本をかかへ
夏の夜の少年が言ふ天文學
空飛ぶ円盤を詠み込んだ俳句の嚆矢として掲げたい。尚且つ、この句はそれを奇を衒う語彙として使用しているのでもない点で、おそらく稀有の美しい――星空の下(もと)の少年としづ子の――「空飛ぶ円盤」俳句である。
UFO史の中では、この前年一九五一年八月にアメリカで起きたラボック・ライト事件が知られる。テキサス州ラボックで全翼機(V字)型の未確認飛行物体やV字型に複数のライトが点灯した物体が目撃され、青年がそのブーメラン状の光源を写真に収めた。同様の物体は同時期ニューメキシコ州アルバカーキなどでも目撃され、二十六日早朝にはその目撃の後にワシントン州防空レーダーがUFOを捕捉、F-86セイバーがスクランブル発進している。当時は正に「空飛ぶ円盤」・宇宙人の到来・地球への来訪や侵略といった都市伝説が大ブレイクする直前であった。例えばウエストバージニア州ブラクストン郡フラットウッズで赤い発光体が目撃され、少年七人が森の中でおぞましいモンスターに襲われる本格的な最初の第三種接近遭遇事件として知られるフラットウッズ事件は、実にこの投句の直後の九月十二日のことなのである。因みにウェルズの「宇宙戦争」のジョージ・パルによる映画の公開はこの翌年、一九五三年である。――何、リキんでるんだ? って? そりゃ、こんな句を見れば、エキサイトしますさ、だって私は十代の頃、UFOの研究をしていたんですから。大真面目にね――三島由紀夫も「空飛ぶ円盤」、大好きだったんですぜ――
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