鈴木しづ子 三十三歳 『樹海』昭和二十八(一九五三)年三月号しづ子詐称投句全掲載句
しばらくはのぼるにまかす熱き湯氣
仲間はずれの大人の如きふところ手
雪の飛驒より來りし牛のつぶらな眼
この夜の爐火アンネンポルカ愉しく聽く
柿は美(よ)し封建ごころ亦強く
「しばらくは」の句は「のぼるにまかす」の表現の面白さなのであろうが、この句は例えば前掲した『指環』所収の「對決やじんじん昇る器の蒸氣」(初出『樹海』昭和二十三(一九四八)年四月号)の後に並べてこそ組写真としてのシーンの面白さが出るのであって、これだけでは最早、喉をやられた風邪ひきが空気を湿らせているみたような愚鈍な景であり、巨湫の選句ポリシーを、私は疑う。
二句目の「ふところ手」をしているのは子供であるが、実は大量投句稿には子供を詠んだ句が想像を絶するほどに多い。伝説のしづ子とは全く異なる母なるしづ子の目線を私はそこに見る(それは何句か既に取り上げてもいる)。今後のしづ子の考察は、未発表の『しづ子伝説如何にもな危険がアブナい句の発掘』ではなく、まず何よりそうした子らを詠唱した等身大のしづ子の母性的優しさから始めるべきであるように私は感じている(次号の選句も同様)。
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