鈴木しづ子 三十三歳 昭和二十七(一九五二)年九月二日附句稿百十句より(2) 十九句
薊吹き死期が近づく筆の冴え
秋の草の吹かるるこの世惜しむなし
死して吾に殘すものなし鳳仙花
わがからだ失せしののちの鳳仙花
秋めきの雲を詠みしを最后とす
秋の雲ゆくおも子はあ鈴木しづ子之墓
秋の雲いづれは失せるべきからだ
星美しき夜の一遍の愛の詩
夏休み了らむとして得し病
この秋と生命限りし棕梠葉かな
死ぬまいぞ鏡の貌の汗の玉
雪被く明治大正昭和の墓碑
わが墓碑は誰がてに成らむ雪めく空
秋ぞきたる吾が上にこそ自由はあり
梅雨土砂降り日本人たることを忌みにけり
雪めく空生きるることは華やかに
意のままに二十七年夏氷
意のままにわが過去帳に白紙なし
風凪て星天の下河流る
……しづさん……もう、いいんだよ……言わなくたって……六十年後の今も「しづ子」は圧倒的な伝説の中に孤独な女王として君臨している……どんな「女」も……しづさん……あなたには勝てないのさ……永遠に「二十七」で……永遠に「娼婦と呼ばれて」……そうして永遠に私のようにあなたを恋い焦がれる男が……居続けるのだから……しづさん……
« 鈴木しづ子 三十三歳 昭和二十七(一九五二)年九月二日附句稿百十句より(1) 二句 | トップページ | 鈴木しづ子 三十三歳 昭和二十七(一九五二)年九月三日『読売新聞』夕刊文化欄「新人抄」掲載句『雲間の陽』全五句 »