鈴木しづ子 三十五歳 『樹海』昭和三十一(一九五六)年五月号しづ子詐称投句全掲載句
ここ美濃に封建の麥靑みたり
星とぶやいつさい棄ててはばかるなし
ちらつく雪吉と引きたる紙は仕舞ふ
夏雨やいっぱい叩く葉のおもて
ここではまた美濃に来た頃に戻っている。底本で漫然と読んでいると、前号の句がすぐ右にあるために、それらの前号の句が秘密の暴露でも何でもない岐阜行の、岐阜での日常的嘱目吟のように見えるかも知れない。しかし、前号とは実は半年もブランクがある。そこに連環らしきものを感じる方が、実は不自然である。そもそも岐阜では「北陸線」はおかしい。そしてそうした錯視効果は、言わずもがな、選句者自身が確信犯で行なってもいるのだ――巨湫はしづ子のジグソー・パズルのピースを用いて実は、読者に、しづ子の句の意味する絵とは別な絵を見せているのだと私は思う――
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