鈴木しづ子 三十五歳 『樹海』昭和三十(一九五五)年八月号しづ子詐称投句全掲載句
春の夜の膚をつぼめし衣うち
竹吹き葉擲つにひとしき怒り起つ
人の言百里を越えて怒り起つ
花すでに美濃は風起つ水ほとり
この選句には標題がなく、尚且つ底本には『(一般欄)』とある。これは俳誌の同人欄(通常、毎号の掲載が保障される)ではない、格下の一般読者投句欄の謂いであろうか。この号でのこの巨湫の処置には(底本で『(一般欄)』注記があるのはこの号だけである)、何か特殊な意味が隠されているように思われる。巨湫が選んだ三句の句柄も、身「うち」に内向していた激しい「怒り」遂に屹立して「起」ち、それが頬を切る、花を散らす鋭い春一番の疾「風」となって外界へ解き放たれているような、独特の心理的な螺旋状の情念のエネルギを感じさせるものである。――巨湫に何かあったのか――もしくは――巨湫にしづ子に関わる何らかの知らせが齎されたのか――
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