鈴木しづ子 三十六歳 『樹海』昭和三十一(一九五六)年七月号しづ子詐称投句全掲載句
方丈記
菊の葉に鎭まりがたき吹雪かな
人の子に慕はれゐたり枯野中
夕燒の失せし地をゆく乳母車
月明の眞中に在りて煽げる火
雪の日の講義續くや方丈記
ここまで付き合って下さっておられる読者には言わずもがな――標題の最終句は、しづ子の高等女学校時代の淡き秘やかな初恋の相手であった国語教師の古文の授業である。巨湫の標題附けは実に上手い。最後の句に辿り着くまで、前の四句は「方丈記」に描かれた貧困と天変地異や火事に荒廃した末法の京の都を髣髴とさせるように選ばれているように思われるのだ。いや、私は巨湫の恣意的選句は絶対にそれを意識していた、と思うのである。
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