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2012/04/05

ジョン・ミリングトン・シング著姉崎正見訳「アラン島」第四部 (21)

 今夜、旅館の客間で、爐に火をともし、椅子を片隅に寄せて、踊りの會を催した。誰も司會者がなかつた。私はヴァイオリンで二つ三つの舞踏曲やその他の曲を彈いてしまつた時、私は皆が私の音樂をどの位に望んでゐるか、また誰か他に歌ひ或は音樂をする人があるか、わからなくなつたので、中止となつた。一寸の間、行詰まりが來たやうな氣がしたが、私のよく知つてゐる若い娘が此の窮境を見てとつて、會の進行係を引受けた。先づ最初に海上警察署の娘にハーモニカで踊の曲を吹くやうに賴んだ。その娘は直ぐに、それを立派な元氣と音律でやり遂げた。それから、小さな娘は私に何を選んでもよいから又彈いてくれと云つた。此のやうな調子で、彼女は家に歸らなければならないと思つた時まで今夜の進行係を續けてゐた。それから彼女は立上つて、私に愛蘭土語で禮を述べ、誰の方をも見ずに、戸口から外へ出て行つた。そして殆んど直ぐ後から、會衆の全部が續いた。

This evening we had a dance in the inn parlour, where a fire had been lighted and the tables had been pushed into the corners. There was no master of the ceremonies, and when I had played two or three jigs and other tunes on my fiddle, there was a pause, as I did not know how much of my music the people wanted, or who else could be got to sing or play. For a moment a deadlock seemed to be coming, but a young girl I knew fairly well saw my difficulty, and took the management of our festivities into her hands. At first she asked a coastguard's daughter to play a reel on the mouth organ, which she did at once with admirable spirit and rhythm. Then the little girl asked me to play again, telling me what I should choose, and went on in the same way managing the evening till she thought it was time to go home. Then she stood up, thanked me in Irish, and walked out of the door, without looking at anybody, but followed almost at once by the whole party.

[やぶちゃん注:以下は、原文では行空きはない。
「今夜、旅館の客間で、爐に火をともし、椅子を片隅に寄せて、踊りの會を催した。」原文は“This evening we had a dance in the inn parlour, where a fire had been lighted and the tables had been pushed into the corners.”である。この直前まで、シングは採録のためにイニシーア島(南島)へ行っていた。しかし、ここに登場するのは「旅館」はどうもイニシーアとは思われない。ここは島を離れる最後の宴の描写であり、本土への船はアランモアのキルローナンから出る。何より、この場面は我々に第一部の最初のシーンを容易に想起させよう。則ち、
『私はアランモアにゐる。泥炭の火にあたり、部屋の下の小さな酒場から聞こえて來るゲール語の話し聲に耳傾けながら。』
この描写は美事にこのエンディングの舞台と一致する。さすれば、この最後の宴の場所は、シングが「アラン島」の最初のシーンとして取り上げた、このアランモアの酒場の二階なのである。何と素晴らしい額縁であろう!
「海上警察署の娘」は注既出の通り、「沿岸警備隊員の娘」。]

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