山燃え
昨日と今日、母の相続登記のために鎌倉の法律事務所に通う。妻は名古屋の母の介護に昨日から行った――
僕の書斎からもそうなのだが、北鎌倉の手前から西の山並、北鎌倉からトンネルを抜けた鎌倉側の谷戸の東(向かって右手)の峰々が桜と新緑で素晴らしく燃えている。こんな季節に僕は鎌倉をしみじみ見ることはなかったのだと気づいた。まるで黒澤明の「生きる」みたように、僕は何で55歳という老齢に至るまで、こんなに;美しいグラデーションの鎌倉の景を見ることなく生きて来たのだろう、と激しく後悔した――
横須賀線の車内からでよい(寧ろ、その方がいい。佐助に向かうあの間道でさえ、人息れは吐きたくなるぐらい酷いから)、近日中に御覧になることをお奨めする。電車に乗って、行って、戻る――何と贅沢なことだろう――
たらば書房で岩波文庫を一万円強分買って、行きつけの大船ルミネの「アジオ」で遅い昼食と赤ワイン。気に入っているウェイトレスの子が挨拶に来た。横井也有「鶉衣」の面白さにのめり込んで一時間ほどいたが、僕と隣りのローマ史の本を読んでおられたご老人以外は、総て御婦人方で、しかも僕は明らかに平均年齢を下げている存在であった――まあ、お互い、何と贅沢なことであろう――
僕は侮れない旨い赤ワインのカラヘを美事に空にしながら、平日の真昼間の一時の至福を祝したのであった――
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