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2012/05/18

耳嚢 巻之四 呪に奇功ある事/その二/鼻血を止る妙呪の事

 呪に奇功ある事

 水に漬し餅或は草あんぴなど唱へ候品、あぶりこの上に乗せて燒くに、過半は右あぶりこへ附きて其樣見苦しく、詮方なきもの也。此春兒孫に燒(やき)なんとてはたきもの抔あぶりこに乗せて燒しに、かたの如く燒付ていと見苦しかりしを、召使ふ老婆是を見て、右は呪(まじな)ふ事ありとて、右あぶりこのこげ付るを淸めて片手にあぶりこを持、我天窓(あたま)の上を三度廻して、扨火に掛て焼しに、一向こげ付不申故不審に存(ぞんじ)、別のあぶりこを取寄、始は常のごとく火に掛けしに、燒付て見苦しかりし故、又淸めて頭の上を三度廻し燒けるに聊不損(いささかそんぜず)、誠に不思議成事也と老たる人に語りければ、それは承及(うけたまはりおよび)たる事也、あぶりこに不限、鐵きうの上にて肴など燒も同じ事也と語りし。天窓の上を廻すといふは、人氣を受(うく)る故の譯にもあるやらん。いづれ理外の論なるべし。

□やぶちゃん注
○前項連関:どうでもよいような吉凶占い話から如何にも実用的な呪いで連関。金属の場合、十分に高温にしてから焼くと焦げ付かないというのはよく言われる。これは附着したタンパク質が加熱されると、金属と反応して熱凝着を起こし、それが結果として鉄と対象物の接着効果を示すからであろう。さすれば、金属の温度を十分に上げて、中間の接着変性を起こしにくくさせるために綺麗に洗い上げることが、熱凝着を回避させる結果を生み、効果的であるようには思われる。更に私は、この話の「天窓の上」というのを、頭の上方ではなく、頭髪に「附けた」状態で「三度廻」すことで、頭髪の脂分が金属に付着し、被膜としての効果を持つからではないかと推測するのであるが、如何であろう?
・「水に漬し餅」餅に黴が生えないようにするために水に入れておく保存法。私が小さな頃は母が普通にそうしていたのを思い出す。それでも、黴は生えるし、腐りもする。――小学校二年生の記憶に――母が水の中で青くなった餅を、裏庭に穴を掘って埋めているのを見ていた――「あんた、こんなこと、御祖母ちゃんにだけは絶対言っちゃだめよ。」と言った――何故か、私は今も忘れない。
・「草あんぴ」草餅。「あんぴ」は「餡餅餅(あんぴんもち)」で、「餡餅」の宋音「アンピン」に由来し、餡の入った餅又は大福餅を言う。別に「あんびん」とも称す(この場合の「アンビン」は唐音で禅寺から起った語とする)。
・「あぶりこ」は「焙り籠」「炙り子」で、火鉢や囲炉裏の端で餅などを焼くための鉄製の網状のもの。必ずしも四角とは限らない。
・「はたきもの」「叩き物」身代を使い果たすことを言うので身分の低い下女などをかく呼んだ可能性もあるが、寧ろ、岩波のカリフォルニア大学バークレー校版の「はしたもの」(召使の下女)の誤記と考えた方が自然か。
・「鐵きう」「鉄灸」若しくは「鉄弓」と書き、火の上に掛け渡して魚などを炙るのに用いる、細い鉄のや串のこと。細い鉄線を格子状に編んだものも。鉄橋・鉄架などとも言う。

■やぶちゃん現代語訳

 呪(まじな)いに不思議な効き目のある事

 水に漬けた餅、あるいは柔らかい草餅なんどといったものを焙(あぶ)り籠(こ)に乗せて焼くと、大半はその焙り籠に焦げついて、如何にも見苦しく、どうにも困るもので御座る。
 この春も、子や孫たちのために焼こうと、召し使うておる若い下女などが、焙り籠に乗せて焼いたところ、例の如く、べっちゃりと網に焼きつき、それがまた焦げて、いかにも見た目も悪い、何とも無様な焼き餅と相成って御座った。
 すると、それを見ておった、召し使(つこ)うて御座るところの、さる老女が、
「こういう時は、ちゃんと呪(まじな)いがある、て。」
と言うと、焙り籠の焦げを綺麗に削ぎ落いて清めると、片手にその炙り籠を持ち、自分の頭の天辺でするすると三度回し、さて、これを以って再び火に掛け、餅を焼いた。
――と――
一向、焦げ付くこと、これ御座らず、上手いこと、焼けた。
 端で見て御座った私も不思議に思うたによって、試しに別の焙り籠を持って来させ、最初はそのまま普通に火に掛けて餅を焼いたところが――これ、やはり焦げついて見苦しいものとなったが故、さて、これをまた、老女のした如くに掃除して、頭の上で三度回して焼いたところ――いささかも、これ、焦げつかず、形も崩れず、相い成った。
 さすれば、後に、
「いや、かくかくのことにて、まっこと、不思議なることで御座った。」
と、さる老人に語ったところ、
「それは先刻承知のことじゃ。焙り籠に限らず、鉄灸(てっきゅう)なんどの上で魚を焼くにても、同じことじゃて。」
――人の頭の上で回すと、人の気を金気(かねっけ)が受けて変性するとでも、言うので御座ろうか? 何にしても、いや、人知論外のことと言うべき不可思議で御座った。

   又

 鱈或は鹽引(しほびき)其外鹽肴(しほざかな)鹽ものゝ類(たぐひ)汐(しほ)を出し候に、紙を四角に切りておのへおのへおのへおのへと書て、右水の上に浮(うか)むれば立所に鹽出し候由、これ又一人のみにあらず、我知れる人一兩人語り侍る。

□やぶちゃん注
○前項連関:食品調理の呪(まじな)いで直連関。
・「鹽引」塩漬けの鮭のこと。

■やぶちゃん現代語訳

  呪(まじな)いに不思議な効き目のある事 その二

 鱈或いは塩漬け鮭、その他塩蔵処理した海産物、その他の陸産食品の塩蔵加工食品の塩抜きのを致す際には、紙を四角に切って、それぞれに「おのへ」「おのへ」「おのへ」「おのへ」と書いた上で、塩出しにそれらを入れた容器の水に浮かべると、これ、たちどころに塩出しが終わる。このことも、知人独りのみならず、私の知人二人までもが、語ったことで御座る。

 鼻血を止る妙呪の事

 鼻血出る人左より出れば己が左りの睾丸(かうぐわん)を握り、右なれば右の睾丸を握り、兩樣なれば兩睾を握れば、感通して立所(たちどころ)に止由。呪ふ人女なれば乳を握りて呪(まじなひ)に妙なるよし。

□やぶちゃん注
○前項連関:呪(まじな)い直連関。医学的根拠はない。以下、複数の信頼出来る耳鼻咽喉科のサイトを参考にして、正しい鼻血の止血法を示しておく。まず、衣服を緩め、気持ちを落ち着かせて、上体を起こして椅子に座らせる(これが最善である)か、何かに背を凭させて床に座る姿勢をとらせ、必ず顔をやや下に向けさせる(血液が咽喉から気管へ流入するのを防ぐためで、しばしば行われる横向きの横臥や上方を仰がせる方法は完全な誤りで、絶対に上を向かせてはならない。なお、血液を飲み込みそうな場合、嘔吐や嚥下反応を起こすことがあるので、飲み込ませずに吐かせるようにする)。 次に、親指と人刺し指で小鼻を抓んで(水に潜る時の要領で)五分から十分程度、圧迫する(殆どの鼻血は鼻中隔前方の鼻孔から一~一・五センチの位置の、粘膜表面に血管が近接分布する、小鼻の内部に当たるキーゼルバッハ部位で発生するからである。鼻梁の上部の硬い骨の部分を押さえるケースが多いが、そこでは止血効果は期待出来ない。寧ろ、上を押さえるならもっと上部の、目頭の間を圧迫するのがよい。鼻に近い動脈はこの付近を通っているからである)。この時、冷たいタオルや氷嚢などで鼻全体を冷やすことが出来ると、血管収縮によって更に効果が期待出来る(この圧迫止血を二十分以上行っても止まらない場合は、貧血症状に繋がり、単なる鼻血に留まらない他の疾患による出血の可能性があるので速やかに耳鼻咽喉科を受診する)。なお、鼻に詰め物をするのは必ずしもよいとは限らない。特に鼻紙を詰めると、抜く際に鼻腔内を更に損傷させる危険性があるので、これも行うべきではない。止むを得ず詰め物をする場合は、柔らかな布や綿を用い、且つ、奥まで詰めないようにすることが肝心である。首の後ろを叩くという方法がよくとられるが、これには止血効果がなく、その際に仰ぐ姿勢となるため、よくない。

■やぶちゃん現代語訳

 鼻血を止める優れた呪(まじな)いの事

 鼻血が出た人は、左の鼻腔からの出血であれば左の睾丸を握り、右の鼻腔からの出血であれば右の睾丸を握り、両鼻腔からの出血であれば両方の睾丸を握らば、たちどころに効き目の御座って止血するとのこと。因みに――呪(まじな)う被験者が女の場合は、睾丸の代わりに乳房(ちぶさ)を握れば、呪(まじな)いは同様に効果覿面という。

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